ウィルソン病患者由来iPS細胞の肝細胞モデル

ウィルソン病はATP7B遺伝子の変異によって起こり、体内に不要な銅が蓄積するために、肝臓や脳などを中心に全身性の障害が生じる疾患です。本研究成果は、ウィルソン病や肝機能障害の新たな治療法開発につながると期待できます。

今回、共同研究グループは、患者から樹立したiPS細胞を肝細胞に分化させることで、ウィルソン病の病態を培養皿中で再現しました。さらに、ゲノム編集を用いて、ATP7B遺伝子の変異を正常な配列へと修正したり、逆にATP7B遺伝子を変異させたりすることで、ATP7B遺伝子の詳細な機能解析を可能にしました。これらのiPS細胞に由来する肝細胞において、レチノイドという物質がウィルソン病の症状を抑制することも見いだしました。

Song D, Takahashi G, Zheng YW, Matsuo-Takasaki M, Li J, Takami M, An Y, Hemmi
Y, Miharada N, Fujioka T, Noguchi M, Nakajima T, Saito MK, Nakamura Y, Oda T,
Miyaoka Y, Hayashi Y. Retinoids rescue ceruloplasmin secretion and alleviate
oxidative stress in Wilson’s disease-specific hepatocytes. Hum Mol Genet. 2022
Apr 7:ddac080. doi: 10.1093/hmg/ddac080. Epub ahead of print. PMID: 35388883.

この研究に関するプレスリリースを理化学研究所、東京都医学総合研究所、筑波大学から行いました。

22q11.2欠失症候群の患者特異的iPS細胞の作製

染色体異常の難病の一つである22q11.2欠失(DiGeorge)症候群の患者様からいただいた体細胞からiPS細胞を作りました。

DiGeorge症候群(22q11.2欠失症候群、またはCATCH22症候群)は、染色体22q11.2の欠失により、多臓器の発育不全をきたす症候群です。我々は、4名の患者からDiGeorge症候群特異的なヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)を作製しました。22q11.2欠失に起因するDiGeorge症候群の分子病態はほとんど分かっていないため、これらの細胞資源は疾患表現型の再現やDiGeorge症候群の新しい治療法の開発に有用です。これからもこのiPS細胞を使って研究を進めていきます。

Shimizu T, Matsuo-Takasaki M, Luijkx D, Takami M, Arai Y, Noguchi M, Nakamura
Y, Hayata T, Saito MK, Hayashi Y. Generation of human induced pluripotent stem
cell lines derived from four DiGeorge syndrome patients with 22q11.2 deletion.
Stem Cell Res. 2022 May;61:102744. doi: 10.1016/j.scr.2022.102744. Epub 2022 Mar 9. PMID: 35292424.

次世代リプログラミング因子KLF4改変体の論文を発表

iPS細胞作製の際に必要なリプログラミング因子の一つであるKLF4タンパク質において、DNAと直接相互作用するアミノ酸残基の改変体を多数作製しました。その中から「KLF4 L507A改変体(ヒトKLF4の507番目のアミノ酸残基ロイシンをアラニンに置換したもの)」を用いてiPS細胞を作製したところ、迅速、かつ高効率で、高品質なiPS細胞株を樹立できることが分かりました。

Borisova E, Nishimura K, An Y, Takami M, Li J, Song D, Matsuo-Takasaki M, Luijkx D, Aizawa S, Kuno A, Sugihara E, Sato T, Yumoto F, Terada T, Hisatake K, Hayashi Y. Structurally-discovered KLF4 variants accelerate and stabilize reprogramming to pluripotency. iScience. 2021 Dec 21:103525. doi.org/10.1016/j.isci.2021.103525

また、本論文発表に合わせて、理化学研究所と筑波大学からプレスリリースをいたしました。

次世代リプログラミング因子KLF4改変体の開発
-iPS細胞をより高効率・高品質に作製-

共著者である共同研究者の方々
ありがとうございました!

筆頭著者のJenny、おめでとうございます!

本研究成果は、従来の天然型タンパク質よりも優れたリプログラミング能を持つ「次世代リプログラミング因子」を開発した初めての例です。今後、他のリプログラミング因子においても同様な機能増強型の改変体が開発されると考えられます。その延長線上では、より効率よく高品質のiPS細胞を容易に作製できることから、患者自身から作ったiPS細胞(My iPS細胞)を用いた自家移植医療の実現に貢献すると期待できます。

また、本研究成果に関する特許のライセンスを受けて事業化を希望する企業を募集しています。

本研究の概要の図



JAG1遺伝子欠損iPS細胞の開発に関する論文を発表

Notch経路のリガンドであり、アラジール症候群の原因遺伝子として知られるJAG1 (Jagged-1)遺伝子に対して、ゲノム編集技術で欠損(INDEL)したiPS細胞株を開発しました。

Song D, Zheng YW, Hemmi Y, An Y, Noguchi M, Nakamura Y, Oda T, Hayashi Y.
Generation of human induced pluripotent stem cell lines carrying homozygous JAG1
deletions. Stem Cell Res. 2021 Oct 26;57:102588. doi: 10.1016/j.scr.2021.102588.
Epub ahead of print. PMID: 34736037.

共著者である共同研究者の方々
ありがとうございました!

筆頭著者の宋さん、おめでとうございます!

今後はこのiPS細胞株を用いた病態モデルの開発や創薬に向けて、頑張っていきます!

博士研究員の伊藤秀矩さんが加入

博士研究員として、伊藤秀矩さんが加入しました。
伊藤さんは、奈良先端科学技術大学院大学を修了しています。
これまでに、マウスES細胞を用いた血管分化とそのデバイス開発の研究や
白血病モデルマウスを用いた遺伝子解析の研究など、
非常に優れた研究成果を挙げています。
今後、更なる活躍を期待します!

BRC20周年シンポジウムとしてwebinarを開催

設立20周年を記念して、
2021年10月20、21、22日に、理研BRCのPIに加え、
植物・微生物共生、幹細胞、マウスモデルの各研究分野より16名の先生方をお招きして、
オンライン形式のシンポジウムを開催します。
是非ご参加下さい。

シンポジウムの情報や参加登録は以下のwebページから
https://web.brc.riken.jp/ja/brc20th/symposium

ISL1遺伝子の蛍光レポーターiPS細胞の開発に関する論文を発表

運動神経細胞、心筋の一部、膵臓の前駆細胞、などに発現するISL1遺伝子に対して、蛍光タンパク質であるtdTomatoを組み込んだ(ノックイン)iPS細胞をゲノム編集技術で開発しました。

Tsukamoto S, Nakade K, Wakabayashi T, Nakashima K, Takami M, Hemmi Y, Kuramochi Y, Shimizu T, Arai Y, Matsuo-Takasaki M, Noguchi M, Nakamura Y, Miwa Y, Hayashi Y. Generation of two ISL1-tdTomato reporter human induced pluripotent stem cell lines using CRISPR-Cas9 genome editing. Stem Cell Res. 2021 May;53:102363. doi: 10.1016/j.scr.2021.102363. Epub 2021 Apr 22. PMID: 34087992.

共著者である共同研究者の方々
ありがとうございました!

筆頭著者の塚本さん おめでとう!

今後はこのiPS細胞株を用いた細胞アッセイ技術の開発に向けて、頑張っていきます!

副腎白質ジストロフィーの患者由来iPS細胞の樹立に関する論文を発表

遺伝難病の一種である「副腎白質ジストロフィー」患者由来のiPS細胞(誘導多能性幹細胞)の樹立と特性解析を実施した内容をStem Cell Research誌で発表しました。

Kuramochi Y, Awaya T, Matsuo-Takasaki M, Takami M, An Y, Li J, Hemmi Y, Wakabayashi T, Arai Y, Inoue J, Noguchi M, Nakamura Y, Asaka I, Akimoto K, Saito MK, Hayashi Y. Generation of two human induced pluripotent stem cell lines derived from two X-linked adrenoleukodystrophy patients with ABCD1 mutations. Stem Cell Res. 2021 May;53:102337. doi: 10.1016/j.scr.2021.102337. Epub 2021 Apr PMID: 33901816.

共著者である共同研究者の方々
ありがとうございました!

筆頭著者の倉持君 おめでとう!

今後はこのiPS細胞を用いた副腎白質ジストロフィーの病態モデルの開発と新規治療法の創出に向けて、頑張っていきます!

「アズワン殿町ラボ ハイブリッドセミナー」での講演

株式会社アズワンの主催で、3月26日(金)に行われる「アズワン殿町ラボ ハイブリッドセミナー」で「疾患患者由来iPS細胞バンクを活用した難病・創薬研究」と題して、講演することになりました。

事前予約制だそうですので、興味のある方は、下のURLから申し込みをお願いいたします。

https://www.as-1webinar.com

COI (利益相反)開示情報
当研究室では、株式会社アズワンから資材を購入しているため、「利害関係者」にあたります。そのため、今回の講演は無報酬で行い、講演内容については、先方企業による操作は全くないことを申告いたします。

「バイオリソースセミナーinけいはんな」での講演

理化学研究所バイオリソース研究センター設立20周年記念事業の一環として、
「バイオリソースセミナーinけいはんな」が3月1日にオンラインで行われ、
林も講演いたしました。

https://www.riken.jp/pr/news/2021/20210215_1/index.html

100名を超えるたくさんの方々に来場いただきました。
厚く御礼申し上げます。