理研BRC細胞材料開発室が細胞バンク事業として提供しているiPS細胞株について、 標準化された形で以下の高次特性解析を実施する。
- 自己複製能解析:iPS細胞の自己複製能を調べるため、増殖能と未分化マーカーの陽性率を解析する。
- 多分化能解析:iPS細胞の多分化能を調べるために、テラトーマ形成実験及び胚様体形成実験を行う。
また、疾患標的細胞(原因細胞、関与細胞等)が判明している疾患であり、
該当細胞の分化誘導法が確立されている場合には、その分化誘導法を用いて特定の細胞系列、種への分化能を解析する。 - 遺伝子・ゲノム解析:それぞれのiPS細胞株の染色体構成が維持されているかを核型解析により検討する。
さらに、原因遺伝子が特定されている疾患に関して、理研細胞バンクが保有する疾患特異的iPS細胞を用いて、
当該の原因遺伝子の配列を解析し、発表されている原因遺伝子と同様の配列であることを確認する。
原因遺伝子が特定されていない場合には、全ゲノム解析などの網羅的遺伝子配列解析を実施し、
原因遺伝子を探索するとともに下記の加工iPS細胞作製に用いるゲノム編集技術に必要な配列情報を得る。
研究報告例
「遺伝性腎臓病の一つである「若年性ネフロン癆(ろう)」患者由来のiPS細胞の樹立と特性解析」(Arai et al., Stem Cell Research 2020)
若年性ネフロン癆患者由来のiPS細胞を樹立するため、共同研究グループは、近畿大学医学部小児科学教室で診療中のNPHP1遺伝子に欠失変異がある2人の同患者から末梢血を採取しました。次に、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)において、採取した末梢血からiPS細胞を作製しました。その作製には、2014年にCiRA で開発された方法を用いました。患者由来の抹消血から分離した白血球の一種である単核球に、エピソーマルプラスミドベクターを用いてiPS細胞を作製した結果、6株のiPS細胞株の樹立に成功しました。樹立したiPS細胞株は、配布機関である理研バイオリソース研究センター(BRC)細胞材料開発室(理研細胞バンク)へと寄託され、理研細胞バンクは、これらのiPS細胞に対する品質検査と、拡大生産するための培養を行いました。その後、三つの研究室からなる特性解析研究グループ(理研BRC iPS細胞高次特性解析開発チーム、理研生命機能科学研究センター(BDR)ヒト器官形成研究チーム、東京理科大学薬学部生命創薬科学科)へ提供しました。特性解析研究グループが、このiPS細胞の特性を解析したところ、NPHP1遺伝子に欠失変異が保持されており、その結果、この遺伝子の発現が消失していること、iPS細胞の特徴である自己複製能と多能性が維持されていることを確認しました。