4. 細胞リプログラミングの技術開発

2006年の誘導多能性幹(iPS)細胞の開発に端を発した、
細胞系譜を人為的に操作する「リプログラミング」技術は、
基礎生物学と再生医療における革新的技術として進展してきた。
しかし、依然として
・リプログラミングの効率が低い
・リプログラミング後の分化能などの「細胞の質」が低い
・リプログラミングされた細胞が不均質である
といった問題が山積している。

これらの問題に対して、
これまでの他の研究では、
リプログラミングされる側のエピジェネティックな環境の状況、
リプログラミング因子の導入法、
培養条件の最適化
といった面では多くの改善がなされてきたが、未だ解決していない。
そこで当チームでは、 転写因子であるリプログラミング因子の根本的な分子基盤に
着目し、その改良化を図ることを目的に研究を行なっている。

当チームリーダーは、多能性ならびにリプログラミング機構に重要な転写因子であるNANOGのホメオドメイン-DNA複合体の結晶構造を得ることに成功し、
その構造からDNAと直接相互作用するアミノ酸残基を同定した。
それらの各アミノ酸残基をアラニンに置換した変異体を作製し、
それぞれ精製したタンパク質ならびにES細胞等を用いた機能解析を実施した。
その結果、各アミノ酸残基のDNA結合における役割を解明するとともに、
野生型NANOGよりDNA結合能ならびに複合体の安定性が高く、
よりリプログラミング能の高い改良型変異体の開発に成功した
(Hayashi et al., PNAS 2015)。

さらに、iPS細胞作製の際に必要なリプログラミング因子の一つであるKLF4タンパク質において、DNAと直接相互作用するアミノ酸残基の改変体を多数作製し、その中から「KLF4 L507A改変体(ヒトKLF4の507番目のアミノ酸残基ロイシンをアラニンに置換したもの)」を用いてiPS細胞を作製したところ、迅速、かつ高効率で、高品質なiPS細胞株を樹立できることを見出した (Borisova et al., iScience 2021)。

本研究の概要の図

今後もさらにiPS細胞へリプログラミングするのに必須である「リプログラミング因子」の分子基盤の機能解析を実施し、その構造と機能の知見から、
天然型タンパク質よりも優れたリプログラミング能を持つ「人工リプログラミング因子」の開発を目指す。